相互関税 90日間停止発表 トランプ大統領 市場の“アメリカ売り”動揺抑えるねらいか 中国は125%

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アメリカのトランプ政権は貿易赤字が大きい国や地域を対象にした「相互関税」を課す措置を日本時間の9日午後1時すぎに発動し、日本には24%の関税が課されました。

しかし、トランプ大統領は9日、ホワイトハウスで記者団に対し報復措置をとらず、問題の解決に向けて協議を要請してきている国などに対しては90日間、この措置を停止すると発表しました。

相互関税を停止している間は各国に課す関税率は10%に引き下げられ、交渉が進められることになります。

日本にも10%の関税は課されたままになりますが、ベッセント財務長官は「日本が列の先頭にいる。彼らは交渉チームを派遣する予定なので、様子を見よう」と述べました。

発動したばかりの相互関税を見直す異例の判断の背景には、アメリカ経済に打撃を及ぼすおそれのある金融市場の動揺を抑えるねらいがあるという見方が広がっています。

特に注目されたのが債券市場です。

株価急落など危機のときは通常、安全資産とされるアメリカ国債は買われ、金利が低下します。

しかし、今週に入って国債は売られ、金利が急上昇する異例の事態となっていました。

市場では中国勢がアメリカ国債を売却しているのではないかという観測も流れました。

国債の金利が急上昇して企業の資金調達や銀行の財務に大きな悪影響が及ぶことへの強い警戒感がトランプ政権にはあったとみられます。

トランプ大統領は記者団に対し「債券市場はやっかいだ」などと述べて市場の動向を踏まえた判断だったことを示唆しました。

一方で、中国からの輸入品への追加関税については中国が報復措置をとったとして、あわせて104%の関税率を125%に引き上げると明らかにし、中国への圧力を一段と強めています。

ただ、トランプ大統領は「中国は取り引きを望んでいるが、どのように進めていけばよいのかがわからないだけだ」と述べ、中国との間でも交渉の余地はあるという考えを改めて示しました。

中国 84%の追加関税措置発動 アメリカからの輸入品に

日本国内 企業や政府の対応は

米国債を売る動きからの財政悪化懸念 判断の背景か

トランプ大統領は9日、記者団から今回の決定の理由を問われた際、「債券市場はやっかいだ。ずっと見ていたが、今は美しい。昨夜は少し不安に感じる人もみられた」などと述べました。

債券市場では、トランプ大統領が今月2日に「相互関税」などについて発表してから景気後退への懸念が広がり、リスクを回避しようと安全な資産とされるアメリカ国債を買う動きが広がりました。

債券市場で国債が買われて価格が上がると、長期金利は低下する関係にあり、長期金利の指標となる10年ものの国債の利回りは一時、3.8%台まで低下していました。

ただ、その後は一転してアメリカ国債を売る動きが広がり、9日未明には10年ものの国債の利回りは一時、4.5%を超えていました。

トランプ大統領の発言は、こうした動きを踏まえたものとみられます。

トランプ政権ではウォール街出身のベッセント財務長官が金融市場のなかでも債券市場をより重視する姿勢を示してきただけに、大統領の判断に影響を与えた可能性もあります。

国債が売られて金利が一段と上昇するとさらなる財政の悪化につながるという懸念が背景にあったとみられます。

さらに、中国が相互関税への対抗措置の一環としてアメリカ国債を売却しているのではないかという観測なども出て、市場は疑心暗鬼の状態に陥っていました。

同じタイミングではアメリカの株式の先物や通貨のドルも売られていて、国債、株、通貨がそろって売られる「トリプル安」となっていました。

市場関係者は「市場がパニック状態で、『アメリカ売り』の様相を呈していた。特に債券市場は異常な動きで、金融危機につながるような兆候が出ていた」と話しています。

ベッセント財務長官「トランプ大統領の交渉戦略 成功」

ベッセント財務長官は9日、ホワイトハウスで記者団に対し「私たちはトランプ大統領が実施した交渉戦略の成功を目にした。75か国以上が交渉のテーブルに着いた」と述べ、相互関税は各国と交渉するためのトランプ大統領の戦略だったと主張しました。

そのうえで「先週、報復しなければ報われるだろうと伝えたとおり、交渉を求めてやってくる世界中のあらゆる国の話にわれわれは耳を傾ける用意がある」と述べ、報復措置をとらなかった国とは協力する姿勢を示しました。

そして、交渉を求めている国々について触れて「日本が列の先頭にいる。彼らは交渉チームを派遣する予定なので様子を見よう」と述べました。

今回の決定 ベッセント財務長官が大きな影響を与えたか

今回の決定についてトランプ大統領は、ベッセント財務長官やラトニック商務長官などと検討を進め、9日朝に決めたことを明らかにしました。

これまでトランプ政権下での一連の関税政策には、通商・製造業担当の大統領上級顧問ピーター・ナバロ氏が、絶大な影響力を及ぼしてきたとされます。

ナバロ氏はトランプ政権の1期目でも通商政策担当の大統領補佐官を務め、ホワイトハウス内では「ナバロ氏の前を通らない政策はない」とまで言われています。

しかし、9日に発動したばかりの関税措置をその日に見直すという極めて異例の判断では、金融市場に精通し、特に債券市場の“プロ中のプロ”と言われるベッセント財務長官がより大きな影響を与えたとみられます。

これについてベッセント氏と10年来の友人で首都ワシントンに拠点をおく投資コンサルタントの齋藤ジンさんはNHKの取材に対し、「トランプ大統領は当初、ナバロ氏の強硬な相互関税を打ち出したが、ベッセント氏が懸念していたとおり、トリプル安、『アメリカ売り』の危険が迫ったため穏健な案に修正したということだろう。ベッセント氏はナバロ氏の案を止めることはできなかったがアメリカ国債を守るというトランプ大統領から与えられた役割を果たしたと思う」と分析しています。

米有力紙 見直しの背景にベッセント財務長官の助言と報道

アメリカの有力紙、ニューヨーク・タイムズは9日、トランプ大統領が「相互関税」を見直した背景を、事情に詳しい関係者の話をもとに伝えていて、このなかでは、経済が混乱しとりわけアメリカ国債の利回りが急激に上昇したことが理由だとしています。

今回の判断に大きな影響を与えたとみられるベッセント財務長官は、トランプ大統領と6日までに個別に話す必要があると判断し、大統領専用機での移動中にトランプ大統領に対して各国との交渉に集中するよう助言したと報じています。

また、ベッセント財務長官は市場はより確実性を求めているとして、トランプ大統領に対し計画の最終段階を明確に示す必要性に言及したということです。

この発言にトランプ大統領は反発し、痛みは「短期的」だと強調したとしていますが、ベッセント財務長官は市場の観点では何か月も続く可能性があると述べたということです。

ラトニック商務長官「中国は世界と反対の方向を選んだ」

ラトニック商務長官は9日「国際貿易を立て直すため、世界はトランプ大統領と取り組む準備ができているが、中国は反対の方向を選んだ」とSNSに投稿し中国の対応を非難しました。

“中国の孤立化がねらい” ウィルバー・ロス元商務長官

NHKのインタビューに応じ、「中国を孤立化させるためのプロセスにある」と述べ、中国への圧力強化の一環だという見方を示しました。

アメリカ国債 各国の保有率は

アメリカ財務省のまとめによりますと、ことし1月時点で海外勢が保有するアメリカ国債の総額はあわせて8兆5260億ドル余りにのぼっています。

国や地域別に見ますと日本が全体の12.7%と最も高い割合を占め、保有額は1兆793億ドル、日本円にして157兆円あまりにのぼっています。

第2位は中国で全体のおよそ8.9%で、保有額が7608億ドル。

その後、イギリスが8.7%で7402億ドル

ルクセンブルクが4.8%で4099億ドル、

タックスヘイブンとして知られるイギリス領のケイマン諸島が4.7%で4045億ドル

ベルギーが4.4%で3777億ドル

カナダが4.1%で3508億ドル

フランスが3.9%で3354億ドルなどとなっています。

「相互関税」今後どう使ってくるのか?

Q.トランプ大統領がここまで中国に強気に出る狙いはどこにあるのか。一方で、そのほかの国には一時停止を打ちだした。各国が揺さぶられている「相互関税」を今後、どう使ってくるのか。

トランプ大統領としては、“対抗措置は許さない”というメッセージを送るねらいがあると思います。

アメリカが巨額の貿易赤字を抱えるいまの貿易体制を根本から変えるために断固とした姿勢を打ち出し、中国を交渉のテーブルに引き出す戦略です。

一方で、アメリカ国債が売られるなど金融市場が大きく動揺する中で、市場を落ち着かせるためそのほかの国に対してはいったんは相互関税を停止し、交渉の用意があることを示さぜるを得なかったとも言えます。

今後、トランプ大統領は相互関税だけでなく自動車関税などほかの関税も使いながら各国にゆさぶりをかけ、大幅な譲歩を引き出そうとしてくる可能性があります。

カナダ首相「歓迎すべき猶予期間」

トランプ大統領が「相互関税」について90日間停止すると明らかにしたことを受けて、カナダのカーニー首相は9日、「世界経済にとって歓迎すべき猶予期間だ」とSNSに投稿しました。

そのうえで「トランプ大統領はほかの多くの国々と二国間交渉を行う意向を示した。これによって世界的な貿易システムは抜本的に再編成される可能性が高い」という見方を示しました。

カーニー首相は、カナダとイギリスの中央銀行の総裁を務めた経済の専門家として知られています。

EU 対抗措置の発動を90日間保留

EUの執行機関、ヨーロッパ委員会のフォンデアライエン委員長は10日、アメリカのトランプ大統領が「相互関税」の措置を90日間、停止すると発表したことについて「トランプ大統領の発表を歓迎する。世界経済を安定化させるための重要なステップだ」などとする声明を発表しました。

その上で、「交渉の機会を設けたい」としてEUが今月15日から予定していたアメリカへの追加関税の発動を90日間、保留すると明らかにしました。

EUは9日、アメリカが先月から鉄鋼製品とアルミニウムに25%の関税を課す措置を発動したことへの対抗措置として、アメリカから輸入されるオートバイや大豆などに最大で25%の追加関税を課すことを決めていました。

一方、交渉が満足いくものでない場合には、対抗措置は発動されるとしていて、EUとアメリカの今後の交渉の行方が焦点です。

ベトナム外務省「前向きな一歩だ」

対米貿易黒字が国別で中国とメキシコに次いで3番目に多く、46%の「相互関税」が課されるベトナム外務省の報道官は10日の記者会見で「決定は前向きな一歩だ。ベトナムはアメリカとともに相互の尊重に基づいた貿易協定にむけて交渉を行なっていく」と述べ、アメリカ側の決定を歓迎しました。

値上がりに備え 駆け込みで購入する動きも…

トランプ政権が中国への追加関税を打ち出す中、アメリカのCNNはIT大手のアップルのスマートフォンは現在多くが中国で組み立てられているとして、今後、仮にアメリカ国内で製造できたとしても、価格は現在の3倍ほどになる可能性もあるとする専門家の見立てを伝えています。

こうした中、ニューヨーク中心部にあるアップルの小売店では9日、値上がりに備えてスマートフォンなどを駆け込みで購入しようという人の姿も見られました。

このうちノートパソコンを購入した地元の女性は「いまの値段で売っているうちに買おうと思って来ました。アメリカに工場を作ることはいいことですが、何年もかかるでしょうし、賢いことではありません。食品や電化製品などあらゆるものの値段が上がると思います」と話していました。
そのうえで「関税をめぐる、いまの状況をとても心配しています。世界経済をもてあそぶような非常に危険なことだと思う」と話していました。

また会議のためドイツから訪れていた男性は「アップルがすぐに値上げをするとは思っていません。私にとってはドイツが報復関税を行うことのほうが脅威です」と話し、ドイツ国内でアメリカからの輸入品が値上がりしないか心配で、アメリカにいるいまのうちにスマートウォッチを購入したと説明していました。

野球帽など輸出する中国メーカー「関税引き上げられるたび恐怖」

トランプ政権による相次ぐ追加関税を受けて、中国ではアメリカへの輸出が多い雑貨や衣類などの業界に衝撃が広がっています。

製造業が集積する広東省広州にある衣料品メーカーでは、海外の大手スポーツブランドなどから発注を受けて帽子などを生産していて、アメリカ向けが輸出の半分を占めています。

「USA」のロゴが入った野球帽などさまざまな商品を輸出してきましたが、トランプ政権による追加関税によって先行きが見通せなくなっています。

ことし2月と3月に中国に対してあわせて20%の追加関税が課せられた際には、アメリカの顧客と協議しながらなんとか輸出を続けてきました。

しかし、追加関税が100%を超えることになり、一部の取引先からは輸出を一時的に停止するよう要請があったということです。

取材に訪れた9日は、アメリカに向けて発送される予定だった商品が工場の一角に積まれたままとなっていました。

このメーカーでは、追加関税がこのまま続けばアメリカ向けの輸出の減少は避けられないとして国内の販路拡大やヨーロッパや東南アジアなどの輸出先の開拓を検討しています。

会社の経営者の馬剣峰さんは「アメリカ市場は私たちにとって非常に重要な市場です。関税が引き上げられるたびに恐怖を感じているので、できるだけ早く解決してほしいです。企業も市民も、中国とアメリカの激しい衝突は望んでいません」と話していました。

タイの輸出業者“今後の政府どうしの交渉に期待”

36%の「相互関税」が課せられるタイでは、輸出業者から驚きとともに今後の関税をめぐる政府どうしの交渉に期待する声が出ています。

このうち、タイで、海外向けにコメを輸出している会社ではここ数年、アメリカでアジア系の住民が増えるのに伴って、タイ産のコメの需要が高まり輸出を伸ばしています。

この会社のアメリカ向けのコメの輸出額は去年1年間で日本円で8億円あまりに上り、輸出全体の10%程度を占めています。

トランプ大統領が「相互関税」を90日間停止すると明らかにしたことについて、この会社のタンヤワン・パタポンCEOは、「タイは36%の『相互関税』が示されたが、朝起きたら10%になっていて驚いた。しかし、これで終わりではなくこの90日の間にまた新たなニュースが届くかもしれない。あしたはどうなるか分からず、パニックにならず、状況に備えないといけない」と話していました。

「相互関税」をめぐってタイ政府は近くアメリカにピチャイ副首相を派遣して交渉を始めたいとしていて、タンヤワンCEOは、「アメリカが方針を見直し、これまでの関税のまま維持してくれることに望みを持っている。それが双方の国民の利益になるからです」と述べて期待を寄せていました。

2025-05-12 08:54 点击量:11